キャー!! 女性の高い声で叫びが響き、駆け寄った皇妃たちは、血の海に横たわる皇帝と、後ずさる皇妃の紅(べに)の姿を目にした! 皇帝の首には獣の噛み跡が、そして頭には大きい傷があり、息はしていない。一大事である。駆けつけた門兵達は「侵入者は決していない」と証言した。女官たちは、皆数名単位で行動しており、複数人で皇帝を害そうとしたとは考えられない。つまり……自由に行動できた四人の皇妃のうち誰かが、犯人であると考えるのが自然だ。伝説の「傾国の妖狐」が実在し凶行を為したのか、噂に聞く「女装した暗殺者」が犯行に及んだのか、はたまた人の身でありながら「天子」たる皇帝を弑(しい)した大逆の殺人犯がいるのか……陛下はその治世前期の名君ぶりは衰え、今や暗君として知られている、好色な老人だ。しかし、殺されるほどの悪人ではなかった。いずれにせよ、後宮外にことが知れ渡り、武官達が踏み込む前に下手人を突き止めなければ、全員が刃の露と消えるだろう。君たちは急ぎ、犯人を挙げなければ!