時は19世紀後半。  

この国にも鉄道が開通するなど、新しい文化と古き伝統が入り交じる混沌の時代。  そんな中〈彩(いろ)持ち〉という存在は、あらゆる国で非常に重要な意味を持っていた。その類稀なる力を、天の贈り物と見るか、鬼と見るかの差はあれど、いずれにせよどれだけの彩持ちを持つかによって、国力を見極められるとまで言われている。  この国における彩持ちの歴史は、あまり明るいものではない。国を脅かした者も少なくはなく、結果として政府が管理をする形をとっていた。彼らは大なり小なり畏怖の対象に相違ないのである。しかし、彼らの働きによって国が豊かになっていることもまた、事実なのであった。  帝都からかなり距離があるにも関わらず、奇妙に栄えた一つの町がある。地主一族を中心とした独自の社会形態でまとまったその町では、肝となる当代の女主人を“巫女“と呼び畏敬の念を抱き、皆従うのだという。  

この日、屋敷には女主人の他に3人の使用人と2人の客人のみが滞在していた。広い建物の中を忙しなく動く使用人たちと、屋敷を物珍しそうに歩き回る招待客、そして普段であれば私室にいることの多い主も、屋内を歩き回る様子が見受けられた。  ことが起こったのは、食堂の大時計が0時を知らせ、この奇妙な夜がようやく静けさを取り戻し始めた頃だった。甲高い悲鳴により全員がホールへと駆けつける。そこには恐ろしい張り付け状態となり事切れた、年若い女中の姿があった。 その身をなんとか下ろそうと誰かが彼女に触れた瞬間、その体から一枚の紙が落ちた。その中身をみた誰もが確信する。

これは、誰かの悪意による“事件”なのだと。