ここはK県ケルノ町の片隅。 大きくもなく、かといって小さくもない、中くらいの公園。 その脇には公園に不釣り合いなほど大きなクスノキがそびえ、町のシンボルになっています。 子どもたちにはお馴染みの遊び場も、今日はなんだか雰囲気が違うようです。 なぜかって? それは、今日が10月31日のハロウィンだから。
少し傾いたオレンジの陽の光に紫のヴェールがかかり始めるころ、様々な仮装をした大人たちが集まってきました。 その手には、カボチャの形をしたランタンや、キラキラのモール飾り、溢れそうなほどのお菓子が詰まった大きなバスケット。 とりわけ目を引くのは、猫の仮装をしたおばちゃんが恭しく捧げ持つ小さな王冠です。 金色の折り紙が貼られ、ピカピカの飾りがいっぱいついた王冠は、誰がどう見たって特別な子どもしか被ることができない代物です。
「今年のハロウィンキングは誰だろうねぇ~」 おばちゃんは滑り台の頂上に王冠を置き、上から箱と紫色の布を被せました。 そうする間にも公園にはたくさんの机や飾りつけが運び込まれ、魔法のようにその姿を変えていきます。 そう、ケルノ町のみんなは、ハロウィンが大好きなのです。

いよいよ陽も沈み、薄暗い公園を満月とランタンの光が仄かに照らしだすと、思い思いの仮装をした子ども達が親に連れられて公園にやってきました。 入口でもらったカボチャ型のバスケットを手に、頬を上気させながら公園を練り歩きます。 猫のおばちゃんが滑り台のてっぺんに上がりました。 「さぁ、そろそろハロウィンキングの王冠を…って、ええっ!」 おばちゃんの悲鳴にみんなが振り向きました。 なんと、なんと、王冠がなくなっているではありませんか。 そこには『ハロウィンキングの王冠は、いただいた! ハロウィンの怪人より』というカードだけが残されていたのでした。 これは大変! 今年のハロウィンキングが決められません!
ハロウィンの夜は、気をつけて。 紫の闇に浮かぶオレンジの光が照らすのは…、怪人の姿かもしれない。 たった一夜の魔法の夜に、あなたが笑顔でいられますように。